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東京地方裁判所 平成5年(ワ)4972号 判決

主文

一  反訴被告らは、各自、反訴原告に対し、金一〇一六万九三一三円及びこれに対する平成元年一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を反訴原告の、その余を反訴被告らの各負担とする。

四  この判決は、反訴原告の勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一反訴原告の請求

一  反訴被告らは、各自、反訴原告に対し、金三五四八万三二二四円及びこれに対する平成元年一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の反訴原告らの負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、首都高速道路において普通貨物自動車同士の追突があつたことから、追突された方の車両の運転者が、追突車両の運転者及び保有者に対し、人損について賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成元年一月一三日午後一一時四五分ころ

事故の場所 東京都渋谷区渋谷二丁目二四番先首都高速道路三号線上り

加害者 反訴被告加藤喜久(加害車両運転)

加害車両 反訴被告三重水産運輸有限会社保有の普通貨物自動車(三八八え・七五二)

被害者 反訴原告。被害車両である普通貨物自動車(足立四六て二六二四)を運転。

事故の態様 加害車両が被害車両に追突した。

事故の結果 反訴原告は、本件事故により頸椎捻挫等の傷害を受けた。

2  責任原因

反訴被告加藤喜久は、加害車両を運転中、前方不注視により被害車両に追突したから民法七〇九条に基づき、また、反訴被告三重水産運輸有限会社は、加害車両を保有していたから自賠法三条に基づき、それぞれ本件事故について損害賠償責任を負う。

3  損害の填補

反訴原告は、反訴被告らから、治療費・休業損害等の賠償金として合計三四一万四七八〇円(内訳、治療費一二八万四七八〇円、休業損害等二一三万円)を受領した。なお、反訴原告は治療費を請求していないから、後記反訴原告主張の損害金に充当可能の分は、二一三万円である。

三  本件の争点

本件の争点は、反訴原告の受傷の程度及びこれに基づく損害の額である。

(一)  反訴原告は、本件事故により、頸椎捻挫、第五頸椎前下縁亀裂骨折の傷害を受け、後遺障害別等級表一二級一二号の局部に頑固な神経症状という後遺障害を残し、このため次の損害を受けたと主張する。

(1) 休業損害 一五〇〇万円

平成元年一月一四日から症状が固定した平成四年五月一九日までの休業損害につき、平成元年分から平成三年分まで一年当たり五〇〇万円として算出した額を請求。

(2) 逸失利益 一八六六万三二二四円

昭和六三年度の年収一七二六万四一七一円を基礎に、労働能力喪失率を一四パーセントとし、一〇年間の逸失利益を請求(ライプニツツ方式により中間利息を控除)。

(3) 慰謝料 三九五万円

通院慰謝料一五五万円、後遺症慰謝料二四〇万円合計額である。

(二)  反訴被告らは、反訴原告の傷害は事故後半年程度で治癒したとして、後遺症の存在を否認し、これらに基づき、損害額を争う。また、損害額算定の基礎を昭和六二年度の年収によるべきことを主張する。

第三争点に対する判断

一  反訴原告の受傷の程度、後遺症の有無について

1  甲三ないし二一、乙三、四、六ないし八、一〇の1ないし4、証人佐野茂夫、反訴原告本人に前示争いのない事実を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 本件事故は、被害車両が首都高速道路三号線上りの渋滞中の車線の最後尾に停車していたところ、加害車両が前方不注視及びブレーキ操作不適のため被害車両に追突し、そのあおりを受けて被害車両が同車両の前に停車していたタクシーに追突し、さらに加害車両が被害車両に再追突し、被害車両がこれらの追突により合計一一・四メートル前進したというものである。反訴原告は、事故直後、後頭部から首にかけて激痛がし、また、本件事故により被害車両のエンジン等が後ろにずれたことからこれを廃車している。

(2) 反訴原告は、本件事故により頸椎捻挫及び第五頸椎前下縁亀裂骨折の傷害を受け、本件事故翌日の平成元年一月一四日から京葉病院に通院加療を受けた。当初は、同病院において第五頸椎前下縁亀裂骨折や後記の椎間板ヘルニアの症状が発見されず、二、三日に一度の割合で保存的な療法を受けていたが(同年六月末日まで合計八四日通院)、症状が持続し、事故から半年経過した以降は、リハビリテーシヨンを主体として加療を受けていた。同年八月からは、佐野医師が反訴原告の主治医となり、同医師による、同月二九日のMRI撮影上の所見により、反訴原告が本件事故により第五頸椎前下縁亀裂骨折をしたこと、同骨折はほぼ治癒状態にあること、及び第四頸椎と第五頸椎との間の椎間板が軽度ではあるがヘルニア状態となり、脊髄及び神経を圧迫していることが判明した。反訴原告は、それ以降もリハビリテーシヨンを主体とする加療を受け、平成二年八月ころまでは、一、二日に一度、それ以降は二日に一度の割合で通院し、結局症状固定と診断された平成四年五月一九日まで、同病院に合計七三五日通院した。

(3) 平成三年一一月一六日や平成四年五月一九日の同病院の診断によれば、反訴原告の症状は、自覚症状として非常に強い痛みや機能障害があり、耳なりも強く、不眠、不快の状況が続くものの、MRIによる前示の所見は手術の必要性ありとはいえず、神経学的にも他覚的所見はなかつた。また、前示第四、第五頸椎間の椎間板の圧迫にもかかわらず反訴原告の神経は損傷されておらず、筋力低下、知覚鈍麻、頸椎の可動制限等の他覚的所見は認められず、稼働制限があるとすれば、主として痛みによるものであるとの診断であつた。

(4) 佐野医師は、前示の椎間板の変形が反訴原告の症状の原因となつている可能性があるものの、加齢によりヘルニアが生じ得たり、無症状の椎間板ヘルニアもあり得ることから、反訴原告の椎間板ヘルニアが本件事故により生じたかどうかは事故前にMRIを撮つていないかぎり断定はできないとし、平成三年一一月一六日付診断書及び平成五年三月二日付診断書において、いずれも、MRIによる所見と事故との相関は証明困難であり、右所見が本件事故によるともよらないとも断定できないと記載している。

(5) 反訴原告は、本件事故前は、健康に何らの異常は無く、スポーツの後に頭痛、頸痛、肩凝り等もすることはなく、特に、後記認定のとおり、昭和六三年には相当の仕事をしてもこれらの部位に異常を感じたことがなかつたが、本件事故後は、上記の自覚症状があり、また、平成五年七月においても頭痛、肩凝り、耳なり、後頭部から首にかけての冷感がある。なお、反訴原告の右症状の回復の見込みは薄く、これを治すには、椎間板を取り去り、腸骨の一部をその場所に埋め込む手術があり得るが、これにより八割の確率で治るとしても、脊髄の付近の手術であつて危険もあり得る。このため、反訴原告は、手術に消極的である。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  右認定事実によれば、平成元年八月二九日に発見された反訴原告の第四頸椎と第五頸椎との間の椎間板ヘルニアが、脊髄及び神経を圧迫し、これが反訴原告の症状の原因となつていると認めるのが相当である。そして、主治医である佐野医師は、事故との因果関係は断定できないとしつつ、頸部に相当な衝撃を受けた場合は、反訴原告のような状態となり得ると供述しており(同医師の証言)、本件事故が三度に亘る追突であつて、被害車両が廃車するに至る程度のものであり、このため、反訴原告は第五頸椎前下縁亀裂骨折をしたことに鑑みると、反訴原告が本件事故により頸部に相当の衝撃を受けたことは明らかであり、右衝撃により右椎間板ヘルニアとなつたと推認することが可能である。もつとも、加齢によつてもヘルニアが生じ得るところ、反訴原告は、本件事故前には、頭部、頸部、肩部に何らの症状もなかつたことから、症状を伴う既往の椎間板ヘルニアの存在は否定され、また、無症状の椎間板ヘルニアもあり得るとしても、その存在を窺わせる事実を認めるに足りる証拠はないことから、結局、反訴原告は、本件事故の衝撃により右椎間板ヘルニアとなつたと認めるのが相当である。前示の平成三年一一月一六日付診断書(甲二一)及び平成五年三月二日付診断書(乙四)は、佐野医師が事故前に撮影したMRIとの比較の無いかぎり因果関係は断定はできないという厳密な意味で記載していることは明らかであり、また、佐野医師も、反訴原告に本件事故前に症状がなければ本件事故との因果関係を推定し得ると供述しているのであつて(同医師の証言)、右判断の妨げとならないし、これらの診断書に基づき自賠責保険における後遺障害等級の事前認定において非該当と判断されたことも(乙九)、右判断の妨げとならない。なお、反訴被告らは、反訴原告が手術を躊躇するため後遺障害があると主張するが、前示手術の成功率及び危険性に鑑み、反訴原告が手術の決断をすることができないのはもつともであり、反訴被告らの右主張に理由がない。

3  次に、反訴原告の右症状の程度を検討すると、軽度ではあるが椎間板ヘルニアの状態が脊髄及び神経を圧迫し、このため、反訴原告は、事故後数年を経ても頭痛、肩凝り、耳なり、後頭部から首にかけての冷感という自覚症状があり、頸部等の局部に神経症状(後遺障害等級表一四級一〇号相当)を残したものと認めるのが相当である。反訴原告は、この点、右神経症状が頑固であるとして一二級一二号の後遺障害を残したと主張するが、前示のとおり、神経の損傷、筋力低下、知覚鈍麻、頸椎可動制限等の他覚的所見は認められず、神経学的に他覚症状に乏しいことから、右神経症状が「頑固」なものと認めるのは困難である。

二  反訴原告の損害額

1  休業損害

乙一、二、五、六、反訴原告本人によれば、反訴原告は、昭和二六年一月二九日に生まれ、ゴム製パツキングの販売を業とし、その業務の内容は、雇用している従業員一名とともに、協力工場から製品を仕入れて、品質検査をした上で、梱包、納品をするものであること、右営業により、昭和六二年度は六五六万四五二〇円の、昭和六三年度は一七二六万四一七一円の、平成元年度は六九四万二四六二円の、平成二年度は四五九万二三二六円の、平成三年度は〇円の各申告所得額があつたこと、本件事故後は首を曲げるのが困難なため品質検査の効率が落ちていることが認められる。

このように、反訴原告の申告所得額は、昭和六二年度と同六三年度とでは大幅に異なるところ、反訴原告は、この点を昭和六三年に反訴原告の弟の工場が本格的に稼働したことによると説明するが(乙六、反訴原告本人)、各年の収支の内訳に関する書証を提出しないため、本件事故がなければそのような収入がいつまで続くか疑問があることから(本件事故後の収入についても同様のことが言える。)、確実である昭和六二年度の収入を基礎として休業損害を算定することとする。

前認定のとおり、反訴原告は、平成元年一月一四日から平成四年五月一九日まで七三五日通院したが、当初の半年間(通院日数八四日)を除き、主としてリハビリによる治療であつたことから、当初の半年間は全日、その後は通院日数一日につき半日の割合で休業損害を算定するのが相当であり、結局、症状が固定した平成四年五月一九日までの休業損害として七三六万四八五一円を認める。

計算 656万4520÷365×(84+651÷2)=736万4851

2  逸失利益

前認定のとおり、反訴原告は本件事故のため一四級一〇号の神経症状という後遺障害を残したところ、症状固定時は四一歳であり、また、症状の回復が困難であることや、反訴原告の職種に鑑みれば、右後遺障害のため反訴原告が主張する一〇年間はその労働能力が五パーセント喪失したと認めるのが相当である。そして、反訴原告の基礎年収は六五六万四五二〇円であるからライプニツツ方式により中間利息を控除すると、本件事故による逸失利益は二三五万四四六二円となる。

計算 656万4520×0.05×7.7217=253万4462

3  慰謝料

前示の通院の日数、治療の経過、後遺障害の部位、程度、内容に鑑みれば、入通院(傷害)慰謝料として一五〇万円、後遺症慰謝料として九〇万円の合計二四〇万円が相当である。

4  以上合計は一二二九万九三一三円であるところ、前示争いのない填補額を控除すると、一〇一六万九三一三円となる。

第四結論

以上の次第であるから、反訴原告の反訴請求は、反訴原告ら各自に対し、金一〇一六万九三一三円及びこれに対する本件事故の日である平成元年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

(裁判官 南敏文)

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